神無月の巫女二次創作小説「夜の桎(あしかせ)」(三十二)
あ、でもね。わたしの千歌音に今度おいたをしたら、その元気な部分をなくすかもね──。この少女、しっかり目釘を湿すのも忘れない。刃先に口づけしながら色っぽくも物騒なことを抜かすものだから、男は野郎をおさえてひくつき笑いをする。たしかに、飯が不味かった。すこぶる不味かった。あのでかぶつ…巫女の言うところの巨神(おほちがみ)とやらに乗る前からも。悪さを働いた手で食う握り飯が旨いはずがなかった。酒はもはや味がせず、水のように浴びた。指先からいつも血の匂いがただよっていた。人間らしい暮らしの時代の、親がくれた自分の名さえ忘れた。鎌で刈った草の匂いが懐かしかった。あの黒髪の女を殴りつけた日から、ずっとずっと、そうだった。あの女が着物を脱ぎ散らかして、それでも頭を下げて、桶をひっくり返したようにしこたま血を吐いて。その姿は労咳...神無月の巫女二次創作小説「夜の桎(あしかせ)」(三十二)