父のこと
あなたへ 父の容体が急変し、あの子と一緒に、 病院へと駆けつけたのは、お正月が明けてからのことでした。 目の前で起きた、 奇跡のような出来事に、安堵したあの日から、 容体は安定したままで、 父は、またひとつ、この世界で年を重ねました。 それは、父の最後の目標だったのかも知れません。 誕生日を迎え、間も無くに、 父は、静かに息を引き取りました。 冷たい雨が降る日のことでした。 体に繋がれていた、たくさんの管を外され、 身軽になった父の姿に、 漸く、苦しさから解放されたのだと思う一方で、 声を掛ければ、返事をくれるのではないのかと、 淡い期待を抱いたまま、 まだ、その温もりの残る父へ、言葉を掛けま…